絵画作家 上原一馬 ウェブサイト

UEHARA Kazuma Website

 
updated 2017-06-05
上原一馬 作品コンセプト

"The new stuff portraiture(ニュー・スタッフ・ポートレイト)"
「新素材による人物表現」


時代が求めるものは何か。新しい平面表現とは何か。その問いは制作者に課せられた課題でもある。
 
その答えの一つは、新しい人物表現の方法である。
大きな流れとしては、確かにスペイン写実主義の研究から日本独自の写実へというリアリズムの追求への方向がある。野田弘志や諏訪敦らがこれに当たる。
しかしそれとは全く逆に、新しい人物形体を求める方向がある。奈良良智やタカノ綾は日本のアニメーションやキャラクターデザインの様式を取り入れながらも絵画のマチエール要素も手放さない表現で、世界的に評価を受ける作家となった。
また玉川信一、筧本生はグレーズ技法を取り入れた油彩によって、吉岡正人、中嶋明はテンペラの伝統的技法を使いながら人物にデフォルメを施した。
最近では日野之彦がキャラクター性と伝統技法の両方を取り入れた作品を制作している。
 
もう一つは新しい素材による表現である。
野見山暁治が完成させた単一素材による抽象画を区切りにして、後に続く抽象分野の現代絵画の「材料」の部分を見ると「ミクストメディア」と書かれていることが多い。
油彩、アクリル、顔料・膠といった材料では表現しきれないものを素材の力を借りて制作しようとするものである。大竹伸朗、室越健美、椿野浩二らはミクストメディアの作家達である。
現代絵画のほとんどがミクストメディアであると言っても良い程だ。
 
これら二つの現代絵画の要素を同時に取り入れようとする動きが、「ニュー・スタッフ・ポートレイト」の作家達により行われている。つまりミクストメディアの時代において素材を具象に帰結させようとしているのである。
平岡靖弘は油彩の下地に石粉粘土を施すことで、画面に重厚感と研磨された風合いを出し、それを人物の身体に溶け込ませることに成功した。
金井訓志は石膏、膠の下地の上に、アクリル+顔料でマットな画面を保持しながら人物を描いている。そのキャラクターの輪郭線には幅を持たせそこに金箔を置く。このことで、明快な色面構成と伝統的な雰囲気の演出を同時に可能にしたのである。
小林裕児は木や布そのものに画面上質感の解決を委ね、人物は呼吸するかの様に生き生きとドローイングで描いている。彼の作品にはちょうど原始社会において石窟内に描かれた風合いと闊達さがある。
また、素材の発掘も行われた。絹谷幸二、有田巧はフレスコ画を日本に初めて伝達した功績がある。古い素材は逆に新しいのである。
ニュー・スタッフ・ポートレイトの先駆者的存在である有元利夫は、このフレスコ画の風合いをアクリルメディウムと顔料によって出そうとした。顔料むき出しのマットな画面はやすりで何度も削られ、風化した壁画を見るようなノスタルジックな感情を呼び起こさせる。人物画は平面化され、太ったように描かれている。一つ一つ色面をしっかり出していくためだ。彼の画面のマチエールと古典音楽が聞こえてきそうな情景の中の人物像は、専門家・一般人の双方から評価され、今も絶大な支持を集めている。
 
ニュー・スタッフ・ポートレイトはぽっかりと空いた表現の可能性の穴で、現在まで漠然とした評価を受けてきた絵画の系統である。
公募団体展である国展では、ヴンダーリッヒの研究を行っていた佐々木豊、塩川高敏をはじめとし、デフォルメされた人物画制作を手がけていた掛川孝夫、瀬川明甫らと、ミクストメディアの材料研究を行っていた佐々木良三、森田孝夫、山田友子ら双方が手を挙げ人材発掘行った結果、ニュー・スタッフ・ポートレイトの作家の出現につながった。
そのため国画会にはこの系統の作家が多く、テンペラ、アクリルの混合技法による安達博文をはじめとし、福井路可、萩原敏孝、長尾多加史、長谷川宏美、肥沼守らがこれに続く。
 
特徴としては、描画材料の開発が一つに挙げられる。
石なら石のざらついた風合いがあり、木なら木の柔らかな風合いがある。彼らは、こういった素材そのものが鑑賞者に与える印象を重要に考える。今まで利用されなかったものとする描画材料にしたりする。
それに加え、特徴としては素材の特徴を生かした人物のデフォルメがある。人物像は巨大化されたり、引き伸ばされたり、歪んだ形体をとる。
なぜかというと素材自体に制限があるからだ。素材そのものが持つ力、鑑賞者に与える触覚的・嗅覚的感覚を念頭におきながら、作家自身の経験をもとに人物形体の心象を表現の中に加える。
この二つを同時に行うため、平面化されたり単純化されることが通常であるが、必然的にデフォルメが必要となるのである。
デフォルメは素材に対する有効性であるとともに、新たな情景でもある。
彼らは素材に関する抱負な知識に加え、描画における高度な技術を持っている。
素材と人物形体の融合、これがニュー・スタッフ・ポートレイトの構成要素である。
 
海外に目を向けてもこれに相当するような著名な絵画作家はほとんど見当たらず、工芸文化が根付いた職人気質の作家の多い、まさに日本独自の平面表現であると言えよう。
絵画史の中ではまだ未分類な系統ではあるが、同時代の「ニュー・スタッフ・ポートレイト」の作家達の運動の中で、私もまた表現の可能性を探っていきたい。