絵画作家 上原一馬 ウェブサイト

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updated 2017-10-28


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2017.10.28

後藤温子 純真な狂気

 

後藤温子
 

 
後藤温子
イラスト系の画集を見ていた時、彼女の絵と出会った。
 
私は釘付けとなってしまった。
一瞬にして彼女の世界に引き込まれたのである。
 
冷たい少女の眼差し。
清潔極まりない画面。
 
この漂白されたような清らかな世界に、
霧の中にいるようにつかみきれない少女。
 
心をえぐるようなサディステックな表現なのに、
嫌悪感は消され、
純真な時間の止まった空気感に包まれる。
 
顔料と膠を使ったしっとりとマットな絵肌は、
汚れのない子どもの肌と同じ質感を感じさせる。
 
彼女の絵を見ていると、イラストだとか絵画だとかいうカテゴリー自体も、どうでも良くなってくる。
優れた絵は、どんなプロにも、何も知らない若者にも、すべての人に届くのだ。
実際、スマホケースとなった彼女の作品は、全く違和感なく、女性たちに身につけられている。
 
毎年次々と生み出される後藤温子の作品と、現代を泳ぎ渡っていくような彼女の活動は、今後、一石を投じていくだろう。


 

2017.09.23

齊藤澄人とラインハルト・サビエ

 

齊藤澄人
 

 
ラインハルト・サビエ

 
同じ長野の作家、齊藤澄人さんから案内が届いた。
日付を見ると、まだ半年先の個展の案内だ。
そのプロモーションの仕方が実に齊藤さんらしい。
 
DMの女性の顔の絵を見て、ドキリと息を飲んだ。
鋭い眼光でこちらを見る人物像は、とてもスリリングだ。
 
齊藤さんの絵を見て、私はラインハルト・サビエのことを思い出していた。
2000年ごろ日本で展覧会が行われた作家だ。
サビエは心理学を学び、絵は独学という作家だ。
 
人の心の奥底まで描こうとしたサビエの絵は、
どの絵も心に訴えかけてくる迫力がある。
 
齊藤さんも絵は、老人や子どもを好んだサビエと違い、若い女性をモデルにしているが、
その女性のまっすぐな瞳は、こちらに何かを問い詰めてくる。
 
そして、重要なのは「秩序と破綻」。
齊藤澄人の絵も、ラインハルト・サビエの絵も、
緻密な描画は、一部が絵の具で破壊されてる。
そして、また描かれている。
 
美しく整っただけではない破綻したところ、
この破壊された部分が人物の複雑な感情とつながっているような気がする。
そう、「目に見えない世界」とつながっているような気がするのだ。
 
描き写すだけではない、絵画の迫力が感じられる作品だ。
 
齊藤澄人展は、2018.4.16月-22日 銀座 ギャラリー惣で。


 

2017.08.08

風間サチコ 受け入れられなかった現実社会

 

風間サチコ

 
3年に1度、世界の最先端の現代アートが日本に集まる、横浜トリエンナーレへ。
いつも、楽しみにしているアートイベントだ。
 
中でも印象に残ったのは、風間サチコ。日本の作家だ。
 
技法はなんともオーソドックス。
小学校でもやるような木版画だ。
 
しかし、これだけ大きいと迫力がすごい。
3mはあろうかという大作だ。
 
そして、すごいのが、その表現内容だ。
『第一次幻惑大戦』と名付けられたこの作品は、
今の社会を痛切にとらえている。
 
月火水木の船に乗り、計算機に押し潰されそうな軍人少年たち。
そこは妖怪たちのうごめく世界大戦に飲み込まれていく。
 
幼少の頃から病弱で、引きこもりがちだったという風間は、
学校という最初に出会う社会から、隔離されてしまう。
勉強にもついていけず、教育課程から完全に外れてしまう。
 
彼女にとって、学校や社会は、
自分の世界とは別に進んで行く、自分不在のもう一つの世界でしかない。
その歩みは速く、どんどん自分は取り残されていく。
 
しかし、そんな状況も、彼女はどこか楽しんでいるかのよう。
拒絶されればされるほど、表現への選民思想へと変換されていく。
 
ベットの上で読みふけっていた本の中のように、こんな自分を受け入れてくれる誰かが、きっと世界にはいるだろうという希望を抱いているのだ。
確かに、受け入れられなかった世界への愛がある。
 
『ぼんやり階級ハンコ』と名付けられた、チープな消しゴムハンコのスタンプコーナーは、自分や、同じように社会に馴染めずにいる人々を、自虐的に慰める。
 
ニート、ゆとり、ロハス、リア充、ぼっち、などの文字が一言で彫られている。
鑑賞者は、好きに紙にハンコを押して持ち帰れる。
 
そう、なぜか暗いだけでなく、どこかに希望と笑顔を残していってくれるのだ。
 
心にグッと入り込み、スッと抜けていく不思議な、
風間サチコの作品たちとの出会いだった。


 

2017.07.28

米津玄師 新世代のクリエイター

 

米津玄師のデビューは、世の中の度肝を抜いた。
 
突然YouTube上で流れ始めた彼の歌は、作詞・作曲ばかりでなく、
自作イラストのアニメーションと共に発表された。
 
もちろんジャケットの絵も自ら描く。
詞・曲・絵すべてに、人々は魅了された。
 
彼は一体何者なのだ?
その謎も人を惹きつけた。
 
米津は徳島に育つ。
首都圏から遠く離れた場所にも、小学生時代から、すでにYouTubeやFLASHアニメーションは日常の中にあった。
 
中学生の頃から彼の興味は、すぐにボーカロイドの曲作りに。
 
当時絶頂期のASIAN KUNG-FU GENERATIONなどの音楽の他、ジャケットにも魅せられ、
高校時代にはオリジナル曲制作にのめり込み、イラストやデザインにも興味を持つ。
 
大阪へと進学し、芸大附属の美術専門学校でイラストレーションと動画編集を学びながら、
いよいよアニメーション付きの楽曲のアップロードを始める。
 
彼の作ったボーカロイドの曲は、瞬く間に1000万回再生に達し、話題となった。
それがきっかけで、自分の声、本名でも発表を始める。
 
米津の登場を待ちわびていたかのように、彼の歌は大ヒットとなった。
現在でもその勢いは止まらない。
 
音楽、イラストレーション、アニメーション、すべてが一人で制作することが可能になっている時代に、そのすべてが、区別なく彼の表現手段なのだ。
 
まさに、新世代のクリエーター。
米津玄師の姿は、若者すべてに誰でもチャンスがあることを示している。


 

2017.06.17

太田侑子 地獄谷

 

太田侑子

この風景画は一体何だろう。
そもそも風景画自体、私の心に響いてくる作品は少ないのだが、
太田侑子の絵は違う。
 
妙な魅力で私の心をつかむ。
 
特別なものが描かれているわけでもない。
写真を起こしたような、地獄谷の風景の一場面だ。
 
なのになぜこんなに不思議に引き込まれてしまうのだろう。
 
何だろう。夢に出てくる怖い風景のようだ。
はっと目覚め「ああ良かった夢か」というような、あの感覚だ。
 
日常にある風景を切り取り、彼女のフィルターを通して描かれた情景は、
なぜか、落ち着かない、心がざわめいて、仕方ない、
とにかく奇妙な光を放ち、迫ってくる。
 
新しい風景画の登場を思わせる、彼女の活躍にも注目している。


 

2017.05.03

第91回 国展

 
今年2017年の国展が始まった。
新しい作品の感性には、やはり心が動く。
 

ミュシャ展2017

古中雄二「figureⅡ Wall of imagination」
 
審査の時に見て強烈な印象に残った作品。
この作品が出て来たときは、確実に空気が変わった。
 
冷え冷えとした建築物の間に囚われ、うごめく、石像のような生命体。
暗闇にスポットライトが当たったようなドラマテックな雰囲気は、ついつい空間に引き込まれる魔力を持っている。
うかうかしていると、 この悪夢の中に落っこちてしまいそうだ。
あやしく並外れた世界観の構築できるこの感性に、才能を感じた。
 
ミュシャ展2017

  稲葉美里「19,20,21」 新人企画展
 
新人企画展は、どの作品も刺激的だったが、その中でもキラリと光る作品だった。
 
イラストレーション世代を生き、絵画の魅力を吸収し、
軽やかな色彩で、自己の葛藤を作品の中に投影する。
かわいらしいキャラクターの中にも、20代の切実さが伝わってくる絵だ。
 
重ね塗りなど細部も技術的に優れていて、確かな実力をうかがうことができる。
 
ミュシャ展2017

  宮崎秀敏「関係1」
 
この一点は、いい意味で浮いていた。
他の作品とは、出発点も違えば、制作過程も全く違うのだ。
 
色彩は明るくて楽しい。
しかし、表現内容はと言えば、細胞や菌が増殖していくような、むずむずする妙な生命感に溢れている。
 
何が描かれているかは分からないのだが、
一瞬にして自分の奥底にあるものと共鳴してしまう、妙な魅力を感じた。


 

2017.04.26

ミュシャ展2017 天才とはこういうこと

 
 
 
ミュシャ展2017

 
国立新美術館での国展審査の合間に、ミュシャ展を観に行った。
 
ミュシャはポスターなどのイラストが大好きだったが、
絵画も観れるということで、「どんな作品だろう」という期待があった。
 
チケットのすごい列に並び、ようやく会場へ。
 
入った瞬間。固まってしまった。
すごすぎる。
 
まずはサイズ。5mサイズの作品がゴロゴロあるのだ。
そして、一点一点の質。その大きさにも関わらずのクオリティー。
 
ミュシャはこんな絵画もなんなく描ける画家でもあったのだ。
 
大作ならではの描き方の工夫もされている。
明度の差を小さくすることで、立体をすばやくとらえるようにしている。
明度差が小さいことで、重ね塗りも少ない回数で最大の効果を出しているのだ。
このサイズをこのクオリティーで描くには、この方法しかないだろう。
 
これらの大作『スラヴの叙情詩』はミュシャが名声を博した後、晩年に描かれたものなのだという。
自国への愛。歴史を後世に残さなければならないという使命感で、採算度外視で、集大成として描かれたものだ。
ゆえに圧倒的すぎるのだ。
 
写真撮影も可だったので、上の写真も参考にと撮りまくったうちの一枚。(しかも部分)
 
展覧会後半は、コマーシャルアートの作品群。
ミュシャは、イラストレーションから絵画まで、どれもすばらしいクオリティーで何でも描けるのだ。
 
「天才」とは、こういうことだった。

 

2017.03.26

信州国展 パネルディスカッション

 

信州国展

 
第13回 信州国展のイベント、パネルディスカッションの日を迎えた。
今回、司会進行を務めることなっている。
 
前回の雨に引き続き、今日は朝からまさかの雪。
長野県の雪をなめてはいけない。本当にすごいのだ。
今度こそ万事休すか、という思いで松本市美術館に入った。
 
不安な思いで会場に入ると、たくさんの美術ファンの観客の皆様。
ざっと100人は超えている。 とりあえず安堵した。
 
国展審査員も務める各部の会員から、6名によるディスカッションだ。
「作品のこころは」
「技法と表現のバランスは」
と話は続く。
 
印象的だったのは、
「制作の秘密道具は」
と話始めた時、若干寝ていたかたもみんな跳ね起きて、
食い入るように聴いてくださったこと。
 
柴田久慶さんの特大の筆の数々。
飯島基さんの手作りの巨大コンパスなど。
確かにこんなの私も見たことありませんでした。
 
後ろの方から「もう少し見えるようにお願いしまーす!」との声も。
制作に興味がある方が多いんですね。
 
足を運んで下さった方、本当にありがとうございました。


 

2017.02.26

つや出しかマットか つやの調整の仕方

 

油彩 つやの調整 艶 ツヤ

 
制作の終盤、 画面のつや にこだわっている自分に気付く。
 
朽ちた風合いを出したいところは、つやはない方が良い。
逆に黒っぽいところは、つやがないと奥深さがなくなる。
 
画溶液を上塗りしていけば、艶はどんどん出ていくが、
つや無しのマットな状態に戻すことの方が、実は難しい。
 
つやがどうしても気に入らず、
「ここ何回ニス塗り直しているんだ?」
と毎日同じところだけを塗りかえる繰り返しに陥ったことも。
 
油彩 つやの調整 艶 ツヤ

 
試行錯誤のあげく、つや無しにするために、
たどり着いた方法は、 マット質なアルキド樹脂を使うことだ。
 
油彩マットニス
ストロングメディウム………………1  (ホルベイン)
テレピン………………………………3
 
油彩ややつや出しニス
ペインティングメディウムゼリー…1  (ホルベイン)
テレピン………………………………3
 
つやなしのストロングメディウムか、
つやありの ペインティングメディウムゼリーか、
 
この割合を調整することで、油彩画のつやは完全にコントロールすることができる。

 
(補足:とにかく速く乾かしたい、グレージング[ 厚塗りの上に、透明色の薄塗り ]を多用したい、
せっかち派の人なら、上の調合で画溶液として全部いける。)


 

2017.01.03

画溶液 描く時は遅く 乾かす時は速く

 
この7,8年を振り返るとき、
画溶液の調合の失敗と改善の歴史だったように思う。
 
画溶液は、速く乾けば良いというものではない。
速く乾くだけの画溶液では、リアル描画からは遠のく。
 
描いているときは、ブレンディング(画面上で混色)が可能なように、遅くドロっとした感じが続くように。
一晩たったら、完全乾燥し、グレージング(液状の絵具を薄くかける)が可能なように。
 
その理想を追い求めてきた。
 

画溶液

 
一馬 油彩画溶液 調合方法
 
アルキド樹脂     1  (ホルベイン ペインティングメディウムゼリー)
フラマンシッカチフ  1  (ルフラン フレミッシュシッカチーフメディウム)
サンシックド・ポピー 1
ダンマル溶液     3
テレピン       6
 
アルキド樹脂 ……………半つやのゲル層を作り、速乾の役割をする。
フラマンシッカチフ ……粘っとつやのあるガラス層を作り、速乾の役割をする。
サンシックド・ポピー …ドローっとつやのあるゲル層を作り、遅乾の役割をする。
ダンマル溶液 ……………すばやく分厚いガラス層を作る。これだけでは再融解してしまう。
テレピン …………………上記を薄める役割をする。
 
描画、グレージングもこれ一本で行う。
 
「描きにくい」「仕上がりが何か違う」
そんなストレスから今ようやく解放されたようだ。
 
おそらく過去の作家たちもこうして
自分なりの調合に行き着いてきたのだろう。

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