絵画作家 上原一馬 ウェブサイト

UEHARA Kazuma Website

 
updated 2017-06-05
 


2014.12.06

池永康晟 想いから生まれる絵



池永康晟



絵を描くきっかけは何だろう。


ある人への想い。
どんなに想っていたとしても、現実には決して叶わぬ想い。


移ろいゆく美しい思い出。
自分も変わり、相手も変わっていく。


美しい人。
決して手の届かない所にいる。


せめて、絵の中に閉じ込めて、永遠のものにしたい。
そんな心も絵を描く動機になるのだろうか。


池永康晟 。日本画家である。


はかなく過ぎて行く出会いを、絵の中に閉じ込める。


それを彼は完全なものとして描こうとしている。
だから、食い入るように、描き込む。


その姿は、つかめない美しいものを、つかもうとするかのようだ。


(ゆう)


「晴れたらまた来るの」。
そう言い残して帰った君。
私は待っているのに、
霧は晴れない。


「満月の夜なら、また会えるの」。
そう言ったままの人を、
私は思い出している。


月が満ちるのを見逃さなぬように、
暮れる空を見ているのに、
霧の向こうに月は隠れて、
私の期待も隠してしまう。



彼が描いている時に残した文だ。


約束が真実としても、その心は移ろいゆく。
人の心も美しさも変わっていくのだろう。
それでも不器用に信じ続ける。


そう、彼の絵は、決して表面上の美しさだけではないのだ。
見た瞬間に引き込まれる奥深い魅力が隠されている。


発売された池永康晟の画集「君想ふ百夜の幸福」。
年末には買おうと思う。


2014.11.23

渡辺夕里子 柔らかに弾ける



渡辺夕里子



今年も渡辺夕里子さんからDMが届いた。
ここのところ毎年だ。


はがきのセンスがいい。
週に多い時は10枚くらい案内が届くが、その中でも最もおしゃれだ。


2014.12.8月〜13土まで銀座GALERIE SOLで個展を開くという。


絵の色はパステル調でやさしい。


しかし、ドロッとした生命観がある。
画面に幽霊のような手が現れて、あやしい雰囲気もある。


繊細に弾けるようなリズムのある絵だ。
情熱的とは違う、静かで繊細な仕方で感情が爆発している。


国展に出品してどのくらいの方なのだろうか。
本人のことを全く知らない。


抽象は世に数あれど、この絵の生命感には何か魅かれるものを感じる。


2014.10.12

上田暁子 彩りの白昼夢



上田暁子



小諸高原美術館へ『 上田暁子 展「森はまだ種の中」 』を観に行く。


「森はまだ種の中」??
展覧会のタイトルからして、何やら不思議な雰囲気。
このタイトルにも誘われるように美術館へ。


会場はエネルギーに満ちあふれている感じだった。
決して情熱的というわけではない、とめどなくイメージが溢れてくる感じ。


作品は、まるで夢の世界のよう。
悪夢でもなく、良い夢でもなく、不思議でつかみどころがなく、
けれど忘れられない夢。


ココロで感じている真実とは、こういうものなのだろうと思えてくる。


筆のストロークのスピード感からも、これらの絵がごく短時間で完成していることが分かる。
彼女はイメージを捕らえるように描いているのだろう。


彼女のアトリエの写真も置いてあったが、
四角い大きめの器に使う何色かを 一色ずつ、油で溶いてペンキのように作っておく。
あとは、絵具を調合する時間も使わず、一気に描き切る。
きっと色を作る時間すら彼女にとっては、わずらわしい時間なのだろう。


同じ長野県の小諸市に住んでいるそうだ。
こんな作家が近くで描いていることをうれしく思う。


2014.09.15

山本文彦 緑と青の世界



山本文彦 棲処



佐久市近代美術館へ「山本文彦展」を観に行く。


山本文彦先生は大学時代にお世話になった方。
退官まであとわずかの時期に、滑り込みで教わった形だった。
出身高校もいっしょという偶然。


山本先生はいつも誠実で丁寧。
ゆえに少し近寄りがたい感じもあったが、その博学さには驚いたものだ。
歴史から技法から、絵画というものを知り尽くしている。
こんなに多様な見方ができる方も少ないだろうと思う。


私の好きな絵は、写真の「棲処」。
山本先生には失礼だが、1970年代の作品が好きだ。
ちょうど安井賞を受賞した前後の時期であるが、とにかくすばらしい。


以後を「緑の時代」とすれば、ブルーを多用していることから「青の時代」の絵だ。


確かな描写力と構成力。
空間把握も非の打ち所がない。
さらに、画面の透明感。
ストロークのスピード感も、画面の勢いを増している。


そして、どこかに「毒」がある。
怪しさが漂い、無関心ではいられない魅力があるのだ。
有機物と無機物が共存する空間には、現代の人間像が凝縮されている。


新ためて、「山本文彦」のすごさを感じた日だった。


2014.08.01

横浜トリエンナーレ2014 大竹伸朗



大竹伸朗



今日は 『横浜トリエンナーレ2014』 の初日。
初日ということもあって、会場では、日比野克彦、松井冬子、やなぎみわ など有名アーティストを大勢見かけることができた。


一番印象的だった作品は、写真の 大竹伸朗の〈網膜屋/記憶濾過小屋〉 だ。
タイトルからして、そそられるものがある。


パッと見のインパクトがすごい。
例えるなら、博士の作ったわけのわからないボロタイムマシン、といったところ。
タイヤがついていて、タンクから煙が吹き出している。
この動きだしそうな巨大なマシンの雰囲気が、少年心をくすぐらせる。


後ろの部分は、舟の部品にペイントが施されていて、が魚のエラのように何重にも重なっている。
小窓からはネオンの光。上には、昭和を感じさせるアンテナ。
何かするための「装置」といった感じがする。


写真の女性のように中をのぞき込むと、畳の部屋にアッと驚くようなおびただしい数の白黒写真。
これがタイトルの所以なのか。


小窓の中には、アジア各国の小物類の立体コラージュ。
その一つ一つが、なんと言ったらいいか。「ダサくて、かっこいい」。
安っぽい造花までもが、堂々と使われている。
この微妙なダサさと安っぽさの上に成り立っている、心を揺さぶらせる脅迫。
この妙なバランスが大竹伸朗の魅力の一つなのかも知れない。


混沌とした作品構成は、妙に人間の整理しきれない感情とリンクする何かがある。


たくさんの作品群の中で、強烈な印象を残す大竹の作品。
彼は、やはり期待を裏切らない。


2014.07.31

マーク・タンジー 赤の情景



谷保玲奈



東京国立近代美術館へ『 現代美術のハードコアはじつは世界の宝である展』を観にいく。


その中で、出会った絵。
マーク・タンジー「サント・ヴィクトワール山」。


巨大な赤い絵だ。
真っ赤な強烈な色彩が目に飛び込んでくる。


夕日?それとも炎の中の風景か。


白いキャンバスに赤一色で描かれた絵。
赤で塗った後、白い部分は素早く拭き取られている。
ほとんどが、絵具が乾く前の拭き取りで描かれているのだ。
ごく短時間に描かれていることが分かる。


しかし、確かな描写力。
人物はリアルな明暗で描かれている。
ドキリとするほどのリアルさだ。


良く見ると、実像は男性、水面に映っているのは女性に変わっていることが分かる。
なんというドラマティックな絵だろう。


直感的なイメージを、確かな描写力で一気に描き切る。
こんな優れた作家が世界にはいるのか。


2014.06.15

谷保玲奈 溢れる色彩と生命感



谷保玲奈



このぐちゃぐちゃにうごめく絵は何だろう。
溢れてくる色彩の渦は何だろう。
良く観ると金魚が描かれているぞ…!


この絵の作者は 谷保玲奈 というらしい。
日本画のまだ若い新人だ。


佐久市近代美術館新収蔵品展で数点出品されるらしい。
これは、観に行かねば。
すべての予定を無視して美術館へ直行した。


会場では、鮮やかな色彩が目に飛び込んできた。
花や魚、海の海藻や生物たち。
色や物が画面から溢れてきそうだ。


海の中で、溢れるように生まれてくる生命。
死に絶えようとも、海の底でまた沸々とわき上がってくる命の営み。


自分の中にもきっと隠れているだろう、そんな命の息吹き。


確かにこの絵は、生きている。
止まっている画面からも命を感じるのだ。


こんなにわくわくするような絵は久々だった。
この無名の新人の作品を、東京の個展会場で買った佐久市 近代美術館はさすがだ。


2014.05.05

第88回 国展 トークイン



国展トークイン



今回の国展のトークインで、私 上原一馬はトーク作家に選ばれた。


事前申込された美術に興味のある方々が、20名ほどで1グループになり、様々なジャンルの作家のトークを作品の前で聴いて回る。
国展会期中の目玉イベントである。


私がトークしたグループは、上の写真の一般の方のグループと、学生と一般が半々くらいのグループの2グループだった。


はじめに作品のコンセプトを語る。
「タイトルの古城は実際にある南ドイツにある古城で、そこへ旅する女性が主人公になっています…」


観客の方々は真剣に、うなずきながら聴いてくださっている。


話は作り方へと、移る。
「コピーの転写の仕方は、拡大コピーの表にグロスメディウムを塗り…」


さらに、表情は真剣だ。
皆さん描いている方が多いんですか?


というか、いつの間にか人が増え、倍くらいが聴いているんですけど…
何か私いい話してますかね…


そして、質問コーナーへ。


ワカマツカオリ さんが好きだとおっしゃっていましたが、人物は全然違うように思えるんですが。」
そこの若い方、よく知ってらっしゃいますね。 ワカマツカオリ。


「人物は白黒で描かれていますが、なぜ肌色ではないのですか。」
するどい質問ですね。重要な所に注目されています。


という感じで進んだトークは、時間が終わっても多くの方が質問に残ってくださり、予定の13分が終わった後も20分程話をしていた。


定員の倍の枚数用意してあったトーク資料も
「いただいて良いですか?」と、どんどんなくなり全部なくなった。


聴いた方は楽しんでくださったのかな。


2014.04.26

第88回 国展




今回の国展は、抽象画の勢いのある作品が多かった。
最高賞である国画賞2点も抽象。
国展の審査のおもしろさが感じられる受賞者たちだ。


私がいいと思った作品は次の作品たちだ。


八木聡悟



八木聡悟「くす43」


この絵は、とにかく快い。
心が解放されていくようだ。


線に迷いがなく勢いがある。
どこまでも自由だ。


色も明るさの中にドロッとしたものがあり、おもしろい。


画材は油彩のみで、このシンプルな薄塗りの絵に、なぜここまで魅かれるのか。


形は自然形そのもので、いろいろなものに見えてくる。
動物、人の体、内蔵…
この絵からは、生命の根源的なものが溢れているのだ。


最高の得票を得ての文句なしの国画賞だった。



鈴木修一


鈴木修一「コンポジション」


今回、私が一番好きな作品。


切れが良くて、かっこいい絵だ。


描いているものは、機械だということは分かるが、何のものかは分からない。
何やら断片的に組み合わされているようだ。


離れてみると抽象で、よく見ると機械の部品で、でも何なのかよく分からない。


機械化された現代に生きる人間達の複雑な感情を描いているようだ。




船木晋也



船木晋也「全部忘れて消えた時の絵」


彼の絵は、ロックでパンクだ。
高卒の彼は、100%天然でこの絵を描いている。


この絵の前では、美大進学の無意味さを痛感させられる。


才能の前には、ひれ伏すしかない。


彼の不幸により受けてきた誤解と抑圧が、鬱積となり爆発し、画面を埋め尽くしている。
バスキアのようなストリートアーティストが、 貧しく 不幸であったために誕生したのと同様に、
マイナスの要素はすべて絵に迫力を与える。


なぜか涙が出るほど、純粋なものを感じる。


彼の周りには、やさしそうな人達が集まっていた。
確かに彼は絵で、人々の心とつながっている。


2014.03.30

信州国展 ギャラリートーク



信州国展


第12回信州国展のイベントでギャラリートークが行われた。
会場は松本市美術館。長野県で最も規模の大きい美術館だ。


絵画・版画・工芸・写真の作家6名による座談会形式のトークで、
司会を務めさせていただいた。


当日は、あいにくの大雨。
どの位集まるかという不安は募るばかりだった。


しかし、予想に反して座席を埋め尽くす美術ファンの方々が集まった。
当初用意していたイスも不足し、スタッフの方にどんどん出していただいたが、MAXの100席を出しても足らず、立ち見が出てしまった。
もっと用意しておくべきだったと後悔。


トークは制作に関する様々なテーマで議論を行った。

「計画派」か「ぶっつけ本番派」か、という質問に対しては、
「ぶっつけ本番派」手法の作家が多いことが意外だった。


観客の皆様は、1時間余りのトークを真剣なまなざしで聴いてくださった。


自分の目の前で、必死にメモを取っているかたの姿が印象に残った。


2014.02.16

遠田志帆 少女達のまなざし



遠田志帆



遠田志帆 は、若い女性達に今最も支持されるイラストレーターの一人だ。


登場する女性のまなざしは、一度見たら忘れられない。
悲しく、はかなく、強いその視線に吸い込まれそうだ。


彼女のすごさは、その技術にもよる。
水彩や油彩にも精通し、デジタルで描いているのにも関わらず、その質感を表現できることだ。
微妙なにじみ具合や、かすれはまさに絵画そのものだ。


髪や目のディテールにも隙はない。
デジタルとは思えない出来だ。

書籍の装丁画を中心に、人気が高い。


秋田の教育学部出身で、教職を3年間務めた後、
結婚を機に本格的に制作活動を始めた。
今は子育てをしながら自宅で制作を続けている。


専門教育を受けたわけでもない彼女は、
イラストレーションと絵画の境目をあっさり飛び越え、
ただ自分の良いと思う絵を徹底して描き切る。


今後もきっと不動の人気を得続けていく作家だろう。


2014.01.26

川野正 今の社会を描く



川野正


川野正。国展の作家である。


彼の描くものは、「今の社会」。


戦争、テロ、事件、事故。
現代社会の問題を、現代に生きる人間を、鏡となって描き出す。


隠された問題を、絵にすることで問題提起する。


スタイロフォームでギザギザに加工されたパネルと、
和紙にしみ込ませた絵具。
焼けこげた画面。


まるで、戦場に取り残された写真のようである。


国展のレセプションで声をかけてきたその人物は、
スッとした風貌で、まるでフォトジャーナリストのような作家だった。


クールに現代社会を描き出す絵の向こう側には、
作家の鋭い目のシャッターがある。